名優・山﨑努と樹木希林
円熟の夫婦役に日本中が笑いと涙に包まれる
山﨑努演じる画家モリ(熊谷守一)は94歳。猫、蟻、カマキリ、揚羽蝶、鬼百合・・・毎日、庭のちいさな生命たちを飽くことなく眺め、絵を描いてきました。
50歳を過ぎてようやく認められ、近頃はどうにか暮らせるようにはなったけれど・・・相変わらず周囲の期待通りには筆が進みません。樹木希林が演じる妻・秀子は76歳。
生活のことなどどこ吹く風の夫と世間の間に立ち、時に光と影を包み込み、毎夜アトリエに送り出します。
子どもを亡くす経験もし、決して平坦な52年の結婚生活ではありませんでした。二人は、じかに優しい言葉をかけあうことはしませんが、ふと漏らす言葉に互いへの深い敬意と
愛情がうかがえるのです。山﨑努と樹木希林という日本映画の至宝たる名優が演じる老夫婦のたたずまいには、長い歳月を経てきたものの深い絆が感じられます。ただ二人がいる、
その姿だけで感動が心に広がるのです。
俊英・沖田修一監督が描く熊谷守一
モリ夫婦を取り巻く個性豊かなキャスト
監督・脚本は『南極料理人』『横道世之介』などの俊英・沖田修一。本作では、30年もの間ほとんど家の外にでることなく、庭に生きる虫、草木、猫などをひたすらみつめ、
描き続けた実在の画家・熊谷守一のエピソードをもとに、モリ夫婦を取り巻く人々の魅力的な生き方を温かな視線で描き出したオリジナルストーリー。作中には、心にじんわり
染みわたる名セリフがちりばめられ、観終わった後には、きっと家族や周囲の人たちを慈しむ気持ちが深くなることでしょう。また、加瀬亮(『硫黄島からの手紙』)、吉村界人
(『ビジランテ』)、光石研(『あぜ道のダンディ』)、青木崇高(NHK大河ドラマ「西郷どん!」)、三上博史(『スワロウテイル』)、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一といった、
これまでもこれからも日本映画を支えるあらゆる世代の実力派たちが結集して、熊谷家の1日を賑わせます。
白洲正子
(「別冊太陽 気ままに絵のみち 熊谷守一」2005/6/20)
この御夫婦とつき合っていると、
気もはればれと天外に遊ぶ心地がする。
底抜けに明るい絵が、平板に見えないのは、
そこに長い人生を生きぬいた人の、
深い喜びと悲しみの裏打ちがあるからに他ならない。